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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)1054号 判決 1974年12月23日

原告 太洋観光株式会社

右訴訟代理人弁護士 松村弥四郎

被告 大原知道

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

「被告は、原告に対し、金四九万四三〇〇円およびこれに対する昭和四六年九月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

主文と同旨の判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.訴外吉田洋子は、昭和四五年一〇月二九日、原告の経営にかかるクラブ・ロリータ(東京都中央区銀座八丁目五番一三号所在)のホステスとして入店したものであるが、その際、原告との間で、在店中における吉田洋子の指名客の飲食代金等の支払については同人が一切の責任をもつとともに、退店の際には、五日以内にこれをすべて支払う旨の契約(以下本件契約という。)を締結した。

2.そして、被告は、その際、原告に対し、吉田洋子の本件契約に基づく債務について連帯して保証することを約束した。

3.ところで、吉田洋子は、その後昭和四六年八月初旬ごろまで、クラブ・ロリータに在店したが、右八月初旬ごろ、別紙飲食代金目録記載のとおりの同人の指名客に対する飲食代金合計金四九万四三〇〇円の支払をしないまま退店した。

4.よって、原告は、被告に対し、右飲食代金四九万四三〇〇円およびこれに対する吉田洋子の退店後五日以上を経過した後である昭和四六年九月一日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うことを請求する。

二、請求原因に対する認否

請求原因1および2記載の各事実は認めるが、請求原因3記載の事実は知らない。

三、抗弁

吉田洋子が本件契約に基づいて原告に対して支払うべき同人の指名客の飲食代金債務は、民法第一七四条所定の短期消滅時効により、おそくとも同人の退店後一年以上を経過した昭和四七年八月一〇日には消滅したから、被告の原告に対する連帯保証債務も、これと同時に消滅した。

四、抗弁に対する認否

右主張は争う。吉田洋子が本件契約に基づいて原告に対して支払うべき債務は、客の原告に対する飲食代金債務の保証債務等というべきものではなくして、客の飲食代金債務とは別個独立の無名契約上の債務であるから、その債務については民法第一七四条所定の短期消滅時効の適用はなく、その債務の消滅時効期間は一〇年であるというべきである。また、吉田洋子が本件契約に基づく債務につき原告に対して最後に入金した日は、昭和四六年一一月四日であったから、右消滅時効期間は、その翌日である同年同月五日から起算されるべきである。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1および2記載の各事実は、当事者間に争いがなく、また、証人川辺美都里の証言およびこれによって真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし五によれば吉田洋子は、昭和四五年一〇月二九日から昭和四六年八月初旬ごろまで、クラブ・ロリータに在店し、そのホステスとして勤務したうえ、右八月初旬ごろ、在店中における同人の指名客に対する飲食代金の一部の支払をしないまま退店したことを認めることができる。

二、ところで、右未払飲食代金の金額がいくらであったかの点はさておき、被告は、吉田洋子の本件契約に基づく原告に対する債務は民法第一七四条所定の短期消滅時効により消滅したと主張するので、以下、この主張の当否について判断する。

まず、吉田洋子の本件契約に基づく債務の性質についてみるに、証人川辺美都里の証言によって真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし六、証人中島秀樹の証言によって真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし二九、同証言によってクラブ・ロリータの客に対する飲食代金等支払請求書の用紙であると認められる甲第八号証の一ないし三および右両証人の各証言を総合すると、クラブロリータにおける客に対する飲食の提供は、ホステスの計算でするのではなくして、原告の計算ですることになっていること、特定のホステスの指名客の飲食代金は、一応そのホステスを介して請求、集金および入金がなされ、指名客が右代金の支払をしない場合には、その支払につき担当のホステスが責任を負うことになっているが、しかし、指名客に対する飲食代金の支払請求も、ホステスの名でするのではなくして、クラブ・ロリータすなわち原告の名でするのであり、これに対する支払も、ホステスを介することなく、直接原告の銀行口座に振り込んですることもできるようになっていることを認めることができる。そこで、これらの事実に基づいて判断すれば、クラブ・ロリータにおいて特定のホステスの指名客として飲食した客自身は、直接原告に対してその飲食代金を支払う債務を負うものと解すべきであり、したがって、ホステスは、原告に対して、原告の主張するような客の飲食代金債務とは別個独立の無名契約上の債務を負うのではなくして、客が原告に対して負う飲食代金債務の支払を保証する債務を負うにすぎないものと解するのが相当である。

そうすると、吉田洋子の指名客が原告に対して負う飲食代金債務について民法第一七四条所定の短期消滅時効の適用があることは明らかであるから、右債務が右短期消滅時効によって消滅するときは、その保証債務である吉田洋子の本件契約に基づく債務も、保証債務としての付従性により、当然に消滅するものと解するのが相当である。(なお、吉田洋子の本件契約に基づく保証債務は、本件契約締結の当時においては、その主債務者も、金額も全く確定していなかったのであるから、このような内容の保証債務の発生原因である本件契約の効力自体も大いに問題になりうるが、本件においては、被告がこれを問題にしていないので、ここでは触れない。)

ところで、吉田洋子の指名客の原告に対する飲食代金債務につき特別の履行期等の約定があったことの主張、立証のない本件においては、原告は、右飲食代金債務の成立の時すなわち客の飲食の時から、その客に対して右飲食代金債務の履行を請求する権利を行使することができたものというべきであるから、吉田洋子の指名客の右飲食代金債務およびその保証債務である吉田洋子の本件契約に基づく債務は、おそくとも客の飲食の時より後の時点である吉田洋子の退店の時から一年以上を経過した昭和四七年八月一〇日には、前記短期消滅時効により消滅したものというべきである。

三、してみれば、吉田洋子の右債務についての連帯保証債務である被告の原告に対する債務も、保証債務としての付従性により、当然に消滅したものというべきであり、したがって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰するから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村長生)

<以下省略>

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